企画展「焼き締め陶-土を感じる-」のご案内
2025/9/14

「賞翫のはじまり-素朴を愛でる-」
展覧会は「賞翫のはじまり-素朴を愛でる-」のコーナーから始まります。

南蛮〆切建水
- ベトナム
- 16~17世紀
- 根津美術館蔵
メインとなる焼き締め陶は、ベトナム製の「〆切」と呼ばれるタイプの建水、すなわち茶碗を清めるときや温めるときに使った湯や水を捨てる容器です。 ご覧の展示は、焼き締め陶が、中国の美しい青磁や金属器などと取り合わされることで、茶の湯の世界に登場したことを示しています。木製品などとともに、侘びの美意識がそこに見出されたのです。 焼き締め陶の賞玩は、侘び茶の誕生と深く結びついていると言えるでしょう。

「南蛮の将来品-形を尊ぶ-」
続くコーナーは「南蛮の将来品-形を尊ぶ-」。 先にもご覧いただいたように、茶の湯で最初に取り上げられた焼き締め陶は南蛮物、この場合は東南アジアの製品でした。

南蛮横縄水指
- ベトナム
- 16~17世紀
- 根津美術館蔵
南蛮物は当初、香辛料などの輸入品の容器として日本にもたらされますが、そこからやがて茶の湯の道具に転用されるものがでてきます。 異国的な形も南蛮物の魅力ですが、焼き締め陶は釉薬を用いないため形が一層際立つ点にもご注目ください。

南蛮縄簾水指
- ベトナム
- 16~17世紀
- 根津美術館蔵
胴部に施された細い縦線を、縄を垂らした簾(すだれ)に見立て「縄簾」と呼ばれるタイプも、人気の南蛮物でした。やがて、日本からの注文で作られる南蛮物もでてきます。

「桃山の熱狂-景色を楽しむ-」
日本のやきものの歴史において、奇抜な器形や大胆な意匠で強烈な存在感を放つ桃山時代の茶陶。焼き締め陶もそこに重要な一角を占めます。 「桃山の熱狂-景色を楽しむ-」のコーナーでは備前、そして信楽や伊賀の焼き締め陶をご覧いただきます。

備前矢筈口耳付水指
- 備前
- 日本・桃山~江戸時代
- 17世紀
- 根津美術館蔵
コーナータイトルの副題にあるとおり、土の質感だけでなく、その上にあらわれた景色が、桃山の焼き締め陶の特徴となります。 こちらは、大胆な篦目(へらめ)や、土がまだ軟らかい時に持ち上げた際の指の痕など、典型的な桃山様式を示す作例。12世紀末期以降、現在の岡山県備前市伊部(いんべ)周辺で生産された備前は、茶の湯の草創期である16世紀初頭より、建水や水指が茶会で取り上げられました。

緋襷鶴首花入
- 備前
- 日本・江戸時代
- 17世紀
- 根津美術館蔵
本来は、揺れる船中でも倒れないように底を平たく広く作った「船徳利」。花入に転用されています。頸の付け根に他の器物が当たった痕跡があり、そのため少し傾いでいますが、それが作品に飄逸な魅力を与えています。 一方、表面の赤い発色は、焼成時に、周囲の作品とのくっつき防止のために巻いた藁が焼けたものです。

焼き締め陶の鑑賞用語
焼き締め陶は、技術的には素朴ですが、その鑑賞は洗練を極めました。それをよく示すのは、焼き締め陶の見所を言い表す言葉の豊富さです。会場では、写真パネルで詳しく解説しています。

伊賀耳付花入 銘 寿老人
- 伊賀
- 日本・桃山~江戸時代
- 17世紀
- 根津美術館蔵
こちらは伊賀の花入です。わずかに前傾し、左右の耳が老人の腕のようにみえる姿から「寿老人」の銘がつけられています。 焼き締め陶は釉薬を人工的には施しませんが、この花入には青緑色の釉が流れています。これは、燃料である薪の灰が降りかかり、釉薬の働きをしたものです。最初は偶然ですが、焼成の工夫によって意図して加えられることもありました。

信楽蹲花入
- 信楽
- 日本・室町~桃山時代
- 16世紀
- 根津美術館蔵
人がうずくまる姿に似ているため「蹲(うずくまる)」と愛称される信楽の壺です。口縁部は一段立ち上げた二重口で、肩には檜垣文が加えられています。表面に、窯の天井や壁から落ちた土屑や灰が降り積もり、景色を作っています。

「江戸の趣向-土肌を求める-」
展示室1の最後、「江戸の趣向-土肌を求める-」。 江戸時代に入ると、肥前(現在の佐賀県)で施釉磁器の生産に成功するなど、陶磁器の技術はさらに発展しました。しかし、焼き締め陶の人気が衰えることはありません。備前や信楽が依然として賞玩されるとともに、信楽写しの茶陶が新たにつくられました。

信楽写芋頭水指
- 京都 野々村仁清作
- 日本・江戸時代
- 17世紀
- 根津美術館蔵
たとえば、野々村仁清。仁清は華やかな色絵で知られますが、一方で、長石の粒を土に混ぜて信楽のような土肌をつくりあげました。 南蛮の芋頭水指のような形をした本作もその一例。技術が進歩しても焼き締め陶の素朴な土肌を求めたところに、日本人の美意識が見てとれます。

「中世の壺・甕の再発見-土と炎を見つめる-」
こうした茶の湯における焼き締め陶の賞翫の一方、近代に入ると、中世の窯で主に作られていた実用的な壺や甕が鑑賞や蒐集の対象となります。 展示室2「中世の壺・甕の再発見―土と炎を見つめる―」では、茶陶とはひと味異なる焼き締め陶の魅力をご紹介します。

(右)信楽甕(左)信楽壺
- 信楽
- 日本・室町時代
- 15世紀
- (右)個人蔵
- (左)根津美術館蔵 卯里欣侍氏寄贈
こちらの2点はいずれも信楽。ことに、明るい緋色が出て、長石や石英が吹き出した右の大甕は、信楽独特の触りたくなるような土肌です。普段は、ケース内の写真のように、草木を入れて花入として使用されています。焼き締め陶の素朴な土肌は、草花の生命感を引き立たせてくれます。
