企画展「遊びの美」WEBギャラリートーク

2022/12/17

北野天神縁起絵巻 第5巻

  • 重要美術品
  • 日本・室町時代
  • 16世紀
  • 根津美術館蔵

 展覧会は、子供たちが遊ぶ姿を描いた作品から始まります。
 菅原道真(みちざね)を祀るための社殿の建築場面には、大人たちに混じって、子供が働く姿も見えます。とはいっても子供のこと、仲間と遊びはじめたり、果てはけんかまで。
 仕事と遊びが、人の営みとして地続きであることもうかがえるようです。

桜下蹴鞠図屏風

桜下蹴鞠図屏風

  • 重要美術品
  • 日本・江戸時代
  • 17世紀
  • 根津美術館蔵

 平安貴族たちの日常は、多く遊びに費やされました。だからこそそれは、単なる遊びにとどまらないとも言えます。
 蹴鞠は、こんにちのサッカーでボールを地面に落とさないように蹴り続けるリフティングを団体で行うようなもの。体を使う遊戯、いわばスポーツですが、やがて飛鳥井(あすかい)家など「蹴鞠の家」も生まれるなど、真剣に取り組まれました。
 こちらの屏風は、江戸時代のはじめに俵屋宗達の工房で制作された作品です。人々の優美なポーズや意匠的な構図が、雅な遊びにマッチしています。

源氏物語画帖

源氏物語画帖「絵合」

  • 伝 土佐光起筆
  • 日本・江戸時代
  • 17世紀
  • 根津美術館蔵

 絵を好む冷泉帝の寵愛を得ようと、梅壺女御を後援する光源氏は古い物語絵など風情あるものを、弘徽殿(こきでん)女御の父親である権中納言は当世風で興味をそそる作品をと、互いに競って収集する。冷泉帝の母である藤壺中宮は、いっそのことと、女房たちを二手に分け、絵を競わせた・・。源氏物語「絵合」巻の一場面です。後宮の争いも、華やかな遊びにかえられるのです。
 物語本文の一節もともに楽しめる画帖形式の作品。詞書き(ことばがき)も活字にして展示しています。

内大臣殿歌合

内大臣殿歌合(類従歌合)

  • 重要文化財
  • 伝 西行筆
  • 日本・平安時代
  • 12世紀
  • 根津美術館蔵

 詠み手が左右に分かれて歌の優劣を競う「歌合(うたあわせ)」も、いかにも雅な遊びに思われます。しかし平安貴族にとって和歌は、それによって思いを伝えるなど、コミュニケーションの重要な手段。歌合は、切磋琢磨して和歌の技術を高める場でもあったのです。
 これは、元永2年(1119)7月13日に内大臣・藤原忠通(ただみち)が催した歌合を記録したもの。淡々とした記録に、熱い戦いを想像してみてください。

草花折枝鶴蒔絵貝桶

草花折枝鶴蒔絵貝桶と合貝

  • 日本・明治時代
  • 20世紀
  • 竹田恆正氏寄贈
  • 根津美術館蔵

 もちろん、もう少し気楽な遊びもあります。貝合(かいあわせ)は、裏返しにした貝から、もともと表裏セットであったものを当てる遊び。トランプゲームの「神経衰弱」に似ています。
 この貝合用の貝とそれを収める桶は、明治天皇・皇后両陛下が、竹田宮家に嫁いだ第六皇女昌子内親王に贈られた由緒正しい品です。

犬追物図屏風

犬追物図屏風

  • 重要美術品
  • 日本・江戸時代
  • 17世紀
  • 根津美術館蔵

 つづいて、武士の遊びを見てみましょう。
 犬追物(いぬおうもの)とは、馬上から弓矢で犬を追う競技です。鎌倉時代以来、流鏑馬(やぶさめ)や笠懸(かさがけ)とともに「馬上の三つ物」と呼ばれ、いずれも武芸の鍛錬のために行われました。
 この屏風の右隻は馬場の中央に縄で円を設け、犬がそれを越えないように矢を射る「縄の犬」、左隻には大縄を越えて疾駆する犬を射る「外の犬」を描いています。

犬追物図屏風(部分)

犬追物図屏風(部分)

  • 重要美術品
  • 日本・江戸時代
  • 17世紀
  • 根津美術館蔵

 犬を射るなんて残酷な! ご心配なく。矢の先には白いカバーがつけられています。

曽我物語図屏風

曽我物語図屏風

  • 日本・江戸時代
  • 17世紀
  • 根津美術館蔵

 山や野における狩も、乗馬や弓矢を実践的に訓練できる場でした。
 こちらは、曽我十郎と五郎の兄弟が父親の仇・工藤祐経(すけつね)を討つ物語を描いた屏風。そのうち右隻は、源頼朝が催した富士山麓での狩りに乗じ、曽我兄弟が祐経を討とうとするものの失敗する情景を、パノラミックに表しています。

曽我物語図屏風(部分)

曽我物語図屏風(部分)

  • 日本・江戸時代
  • 17世紀
  • 根津美術館蔵

 画中には、頼朝や曽我兄弟の姿も見えますが、新田四郎がイノシシに後ろ向きに乗る場面も「曽我物語」において有名でした。

伊勢参宮図屏風

伊勢参宮図屏風

  • 日本・江戸時代
  • 17世紀
  • 根津美術館蔵

 やがて江戸時代になると、太平の世を背景に庶民の経済力が高まり、行動範囲も広がります。
 なかでも、伊勢の神宮(伊勢神宮)は「一生に一度はお伊勢参り」と唄われ、人気を博しましたが、参詣だけが目的ではなく、道中の観光も大きな魅力でした。

伊勢参宮図屏風(部分)

伊勢参宮図屏風(部分)

  • 日本・江戸時代
  • 17世紀
  • 根津美術館蔵

 外宮(げくう)から内宮(ないくう)へ向かう途中には、二人組の女性芸人が三味線や胡弓(こきゅう)などを弾く小屋が並んでいました。その前を人々が楽しげに行き交います。

邸内遊楽図屏風

邸内遊楽図屏風

  • 日本・江戸時代
  • 17世紀
  • 根津美術館蔵

 「邸内遊楽図屏風」とは、豪壮な建物の内部や付属する庭で展開される様々な遊興の様子を描く屏風作品です。現在、50点あまりが知られています。多くは遊女のいる妓楼を舞台としますが、若い男性スタッフが客をもてなす若衆(わかしゅう)茶屋を描く作例が、7点確認されています。
 中でも本作品は、建物、調度や器物、人物と衣裳のすべてに及び、最も精細な描写が施される優品です。

邸内遊楽図屏風(部分)

邸内遊楽図屏風(部分)

  • 日本・江戸時代
  • 17世紀
  • 根津美術館蔵

 左奥の座敷には琵琶法師の姿、その前の方には本を広げた二人組が見えます。床の間にも本が積まれていますが、それら表紙には「平家物語」とあります。琵琶法師による語りを通じて、「平家物語」は上層階級から庶民にいたるまで広く親しまれました。
 近世における豊かな遊びの様子がうかがわれます。